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低リン血性くる病・骨軟化症の診療について、専門医がわかりやすく解説していきます。

【診断編】くる病・骨軟化症の診断マニュアルの解説

本コンテンツは、日本内分泌学会、日本骨代謝学会より許諾を得て「くる病・骨軟化症の診断マニュアル」を転載しています。

解説 2

診断

 骨石灰化障害の確定診断は、骨生検による類骨の増加、テトラサイクリンの2回骨標識での二重標識の消失を始めとする骨標識の異常パターン(類骨形成と成熟、石灰化障害)が確認されることによってなされる。骨生検は侵襲的検査であるが、臨床的に診断に難渋する場合には腸骨生検による骨形態計測も考慮される。

 くる病の臨床診断は、単純X線所見でのくる病所見と生化学所見、および臨床症状によりなされる。

 骨軟化症は、骨粗鬆症などの各種他疾患と混同される場合が稀ではないものの、症状とともに、大部分の症例で低リン血症や高骨型アルカリホスファターゼ血症が存在し、骨シンチグラフィーでの多発性取り込みや単純X線像でのLooser’s zoneが認められることが診断の一助となる。

鑑別を要する疾患、混同されやすい疾患

低骨密度: 骨粗鬆症、腎性骨異栄養症など
骨変形: 骨系統疾患
骨痛: リウマチ性多発筋痛症、強直性脊椎炎など
筋力低下: 神経・筋疾患
骨シンチグラフィーでの多発取り込み: 骨転移
くる病様骨変化: 低ホスファターゼ症

病因とその鑑別

 骨石灰化を障害する薬剤によるくる病・骨軟化症を除き、多くのくる病・骨軟化症では、慢性の低リン血症が認められる(表1)。ただしビタミンD欠乏性くる病などでは、低リン血症ではなく低カルシウム血症が主徴となることがある(表3)。またビタミンD欠乏では、二次性副甲状腺機能亢進症により血中副甲状腺ホルモンが高値となる。このビタミンD欠乏の診断は、血中25-水酸化ビタミンD[25(OH)D]濃度の低値によりなされる。ビタミンD欠乏患者の1,25-水酸化ビタミンD[1,25(OH)2D]濃度は種々の値を示しうることから、血中1,25(OH)2D濃度の測定はビタミンD欠乏の診断には有用ではない。また、近年ビタミンD不足や欠乏の頻度が高いことが報告されている。従って他の病因によるくる病・骨軟化症に、ビタミンD欠乏が合併する可能性を考慮しておく必要がある。
 くる病・骨軟化症の原因となる慢性の低リン血症の原因は、ビタミンD代謝物作用障害、腎尿細管異常、線維芽細胞増殖因子23(fibroblast growth factor 23: FGF23)作用過剰、およびリン欠乏に大別される。FGF23は、腎尿細管リン再吸収と腸管リン吸収の抑制により、血中リン濃度を低下させるホルモンである。過剰なFGF23活性により、いくつかの低リン血症性くる病・骨軟化症が惹起される(表2)。くる病・骨軟化症の病因の鑑別フローチャートを図5に、また各種病因によるくる病・骨軟化症の代表的生化学所見を表3に、年齢別リン、TmP/GFRの基準値を表4に示す。典型的な症例ではこれらの図表により、くる病・骨軟化症の病因の鑑別が可能である。ただし実際の症例では、前述のように複数の病因が関与している場合がある。また、ビタミンD代謝物作用障害で、アミノ酸尿が認められることも報告されている。25(OH)DとFGF23の測定は、現状では保険適用となっていないが、一部の検査センターでは可能である。

▼ 表1:くる病・骨軟化症の病因

○低リン血症

ビタミンD代謝物作用障害

  • ビタミンD欠乏
  • 薬剤(ジフェニルヒダントイン、リファンピシンなど)
  • ビタミンD依存症1型1)
  • ビタミンD依存症2型2) など

腎尿細管異常

  • 高Ca尿症を伴う遺伝性低リン血症性くる病・骨軟化症3)(hereditary hypophosphatemic rickets with hypercalciuria:HHRH)
  • ファンコニ症候群
  • デント病4)
  • 腎尿細管性アシドーシス
  • 薬剤(イホスファミド、アデホビルピボキシル、バルプロ酸など) など

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症(表2参照)

  • 腫瘍性くる病・骨軟化症
  • X染色体優位性低リン血症性くる病・骨軟化症 など

リン欠乏

  • リン摂取不足、腸管吸収障害 など

○低カルシウム血症

ビタミンD欠乏の一部
ビタミンD依存症1型1)
ビタミンD依存症2型2)

○その他の原因による石灰化障害

薬剤(アルミニウム、エチドロネートなど)


1) CYP27B1遺伝子変異、常染色体劣性遺伝
2) VDR遺伝子変異、常染色体劣性遺伝
3) SLC34A3遺伝子変異、常染色体劣性遺伝
4) CLCN5遺伝子変異、X染色体劣性遺伝

▼ 表2:FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症

X染色体優性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLHR)
PHEX遺伝子変異
常染色体優性低リン血症性くる病・骨軟化症(ADHR)
FGF23遺伝子変異
常染色体劣性低リン血症性くる病・骨軟化症1(ARHR1)
DMP1遺伝子変異
常染色体劣性低リン血症性くる病・骨軟化症2(ARHR2)
ENPP1遺伝子変異
歯の異常、異所性石灰化を伴う低リン血症性疾患
FAM20C遺伝子変異
McCune-Albright症候群/線維性骨異形成症
線状皮脂腺母斑症候群に伴う低リン血症性くる病・骨軟化症

腫瘍性くる病・骨軟化症
含糖酸化鉄、ポリマルトース鉄による低リン血症性くる病・骨軟化症 など

XLHR: X-linked hypophosphatemic rickets/osteomalacia
ADHR : autosomal dominant hypophosphatemic rickets/osteomalacia
ARHR : autosomal recessive hypophosphatemic rickets/osteomalacia

PHEX : phosphate-regulating gene with homologies to endopeptidases on the X
chromosome
DMP1 : dentin matrix protein 1
ENPP1 : ectonucleotide pyrophosphatase/phosphodiesterase 1
FAM20C : family with sequence similarity 20, member C

▼ 表3:くる病・骨軟化症の主な病因の生化学所見

表3:くる病・骨軟化症の主な病因の生化学所見

表3:くる病・骨軟化症の主な病因の生化学所見 他疾患との鑑別に特に有用な検査所見を示す。

▼表4:年齢別リン、TmP/GFRの基準値(mg/dl)

年齢区分 血清リン TmP/GFR n
1歳未満 5.64±1.01 5.65±1.20 9
1~10歳 4.80±0.51 5.31±0.40 6
10~15歳 4.07±0.78 4.52±1.10 12
15~20歳 4.02±0.44 4.27±0.60 49

ホルモン受容機構異常に関する調査研究班平成14年度研究報告書より。

図5:くる病・骨軟化症の病因鑑別フローチャート

▲図5:くる病・骨軟化症の病因鑑別フローチャート

POINT

  • くる病・骨軟化症の病因には様々なものがあるが、薬剤性の場合を除き、多くのくる病・骨軟化症では慢性の低リン血症が認められ、その病因は「ビタミンD代謝物作用障害」「腎尿細管異常」「線維芽細胞増殖因子23(FGF23)作用過剰」「リン欠乏」に大別される。
  • 実際の症例では複数の病因が関与している場合もあり、注意が必要である。

Dr’s Comment

Dr’s Comment くる病は多くの場合、2~3歳頃にO脚やX脚を主訴として発見されます。早期に治療を開始することで骨の変形を抑え、身長への影響が改善するとの報告もあり、的確な診断が非常に重要となります。一方で、くる病・骨軟化症の病因は多様であり、専門家以外の医師による診断は容易ではないとも考えられます。
本マニュアルは、血清リン濃度やFGF23濃度などから病因を鑑別するフローチャートなども掲載され
早期診断や病因鑑別に役立つ内容となっています。治療内容も原因により異なってきますので、臨床現場でぜひご活用いただきたいと思います。

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